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函館珍道中 〜真の武士である土方歳三に捧ぐ〜

「ネェネェ、今年の総会は函館だって!」

三年前の秋、一通の組合報が私の運命を変えた。

「函館?北海道?行こうよ、母!!」

「そう言われてもね…」

「タラバガニ!!イクラ!!イクラ丼なんてドンブリ一杯にイクラがのってるんだって!」

「だって醤油漬けでしょ?塩漬けのイクラじゃないと好きじゃないもの。」

「アイスクリームもおいしいらしいよ!」

「シャーベットの方が好きだし…」

「…あのねぇ、要は飛行機乗るのが怖いんでしょ?」

「どうしてわかったの?だって考えてみてよ。あんな大きな物体が飛ぶなんて、自然の理に反してる。 大学時代に八丈島にプロペラ機で行った時、丁度席がプロペラの真横で、いつ止まるのかと思ったら、 生きた心地がしなかった…」

「バカか!!時代は変わってる!!」

 散々押し問答の挙句、パンフレットを見ていた龍の子が

「母、ホテルから五稜郭も近いらしいよ。」

と、ニヤニヤしながら最後の切り札を出した。

「五稜郭?」

「そう、五稜郭。トシだよ、トシ!!母の憧れのトシ!」

「なんて事言うの!歳三様でしょ。そうだ!歳三様だ!新撰組だ!よし、行こう!!」

 その頃私は、NHKの大河ドラマ【新撰組!!】にかなり感銘を受け、 毎週日曜の夜は早目に仕事を切り上げ、テッシュペーパーとビールを用意し、 20:00ジャストにはTVの前に何が何でも座っているという状態であった。

 小さい頃、よく父と見ていた【燃えよ剣!】では、新撰組の歴史的意味などわからず、 薄幸な美剣士・沖田総司がただ好きで、父の説明する【五稜郭】や、はてや【白虎隊】の話など

「また始まったか…ご飯の最中に歴史の話はやめてくれないかなぁ…」

と、家族一同聞いてる振り。

 そして何十年かたち、何の気なしに見た【新撰組!!】のキャストには最初かなりとまどい、

「お正月の隠し芸大会じゃないんだからさ…もうチョット考えてよね〜」

と、高を括っていた。

 ところが回を重ねるうちに、三谷幸喜さんの脚本、服部隆之さんの音楽もさることながら、 出演者陣の演技力には目をみはるものがあった。第32回『山南脱走』、最終回『愛しき友よ』での 藤原竜也さん扮する沖田総司の死の場面は、1番泣いてしまった回で、 かなりのテッシュペーパーを必要とした。

 更によかったのは、山本耕史さん演じる土方歳三である。 【燃えよ剣!】の土方役・栗塚旭さんはシブすぎて、小さな私にはピンとこなかったけれど、 実在の土方歳三と同世代の山本耕史さんが、妙にカッコ良く、画面で

「待たせたな!」

なんて言って登場すると、もう

「歳三サマ〜〜〜〜〜!!」

と、クッションを抱きしめ、【土方歳三】がいいのか、【山本耕史】さんがいいのか、 2人がオーバーラップして150年の時を越え、一言で言うと恥ずかしながら 『恋して』しまったのである。

 以前、オスギとピーコさんが

「アニメの主人公に惚れたら地獄よ!」

と言っていたが、まさにその通り。どうにでもできない… それでは、せめても【土方歳三】の終焉の地に行ってみたいと、函館行が決定され、 密かに歳三様の現存する写真を胸に、あれこれ思いにふける私の横で、 早速買ってきた『るるぶ』の函館特集をペラペラめくっていた龍の子は、

「雰囲気で選ぶレストラン…函館ナイトスポットか。お土産は朝市。 まてよ!?やっぱりお寿司も食べないとね、母!!」

あくまで目的は【食】にあるらしい。

 そしていよいよ待ちに待った10月23日が訪れ、私と龍の子は、目的は違えども、 函館に向かったのである。まさに私の運命を変えた【函館珍道中】の始まりであった。

「飛行機は待ってくれないんだからね!!」

「わかってる、わかってる。」

 前日までに、しっかり準備をしたはずであったが、函館行の当日の朝、私はかなり迷っていた。

「函館でしょ?横浜はまだそんなに寒くはないけれど、極寒の地・網走という事もあるから、 寒かったらどうしよう…」

 あれやこれや考えた末、やっと着ていく物が決まると

「用意できた〜?」

と龍の子が軽装で登場。私の格好を見るなり

「何それ!!!?」

「そう?叶姉妹みたいで、いいでしょ?」

黒の毛皮のロングコートに、黒いサングラス、黒いブーツ。 我ながら決まってる。

「恥ずかしいから、やめてよ!!飛行機は待ってくれないんだからね。 もうその辺のコートでいいよ!先行くよ!!」

と、私の普段着の赤いピーコートを指さす。

「だって、この日の為にと、この間買ったコート見つからないのよ。」

「もう時間がない。先行くよ!!」

「ミカさん、待って〜〜〜〜」

 何とか赤いコートで搭乗時間に間に合い、搭乗口を通ろうとすると 『ピッピー』と探知機が鳴り、2人共ブーツまで脱がされてしまった。

「なに?母の厚手の靴下。」

「龍の子だって、何で水色のソックス履いてるのよ。こんな所でブーツまで脱がさなくてもねぇ。 英国王室だったら、大変な騒ぎよ!!」

「母…おなか空いた。」

やっぱり龍の子の目的は【食】であったか。

「飛行機の中で何を飲むか聞かれたら、コンソメスープが美味しいよ。」

「あのねぇ、私は一大決心をして飛行機に乗るのよ?自然の理に反するのよ?  食べたり飲んだりなんか、できないわよ。」

「万世のカツサンドが美味しいよ。」

「勝手に買ってらっしゃい!2人分!!」

 やっと狭い通路を通って座席に座り、ドキドキしながら離陸の時間を待つ。 飛行機が動き始める。旋回しながら直線コースに乗り、速度を速める。

「なんか今日はすごく揺れる感じがするんだけど、飛行機に乗り慣れてる私でも、これは怖いよ。 母!どうしたの??」

「万が一落ちた時は、体力が勝負。おなかが空いて、力尽きて、掴まってる物から 手を離さないように、カツサンド食べてるの。龍の子も食べておいた方がいいよ。 親子でもイザとなると、自分の事の方が大事になっちゃうかもしれないから。 食べたら怖いから、函館に着くまで寝るからね。」

「度胸が据わってるんだが、物を知らないというか…」

 ようやく無事に着いた函館は、10月には珍しい初雪であった。 搭乗口を出ると、寒さが身に染みる。空気が綺麗なせいだろうか? そっと隠し持って来た、毛皮の襟巻きを首に巻くと、我が子の軽装が気になり、うしろを振り向いて

「寒くない?」

と、珍しく親心を見せようとしたが、我が子の方が1枚上手であった。 私がこの日の為に買った新しい毛皮付コートを着ていた。道理で探してもないはずである。

「何で私だけ普段着のコートなのよ。」

「お借りしました。」

「聞いてない!!」

「言ってないもん。」

 仕方ない。今更この寒さの中で脱げと言ったら、極悪非道の親に思われかねない。 でも私なんか手袋まで持って来たからね。そこまでは気づかなかったでしょ。

≪次号へつづく≫

ちづる 名前: ちづる
生年月日: 年齢不祥(ということにしておいて)
趣味: パチ○○(大きな声じゃ言えないが)
好きな食べ物: お寿司・ライチ(楊貴妃が好んで食べたから)
好きな時間: 仕事が終わってビールを飲む時
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